先日、2019年のフランス映画「男と女~人生最良の日々」をようやくDVDで観ることができた。実は昨年予告編で「男と女」から53年を経たジャン=ルイ・トランティニャンのあまりの変わりように少なからず衝撃を受け、足を運ぶのが遠のいてしまっていた。
中学生の頃だったか、エレクトーンでフランシス・レイの曲は沢山弾いていたが、その後、映画「男と女」を観た時にあらためて流れていたその音楽が、モノクロと時折交ざり織りなすカラー映像の回想シーンやそのドラマティックで切ないストーリーと相まって絶大な存在感を残す映画音楽だったという事実を知ることになった。
その後、この映画のレーザーディスクもゲットし、サウンドドラックも手に入れ宝物になっていた。
主題歌以外の曲も臨場感に溢れ心を突き刺すのだ。
なかでも、アヌーク・エーメの亡き夫役ピエール・バルーが「Samba Saravah」を歌うシーンが私の人生を変えた。
これはフランシス・レイの曲ではなかった。
ブラジルの巨匠バーデン・パウエルとヴィニシウス・ヂ・モライスの
「Samba da Bençao」祝福のサンバのフランス語バージョン。後にこの曲がこの映画より前にブラジルでバーデン・パウエルとプライベート録音されたものだと知る。
お馴染みの「ダバダバダ…」のスキャットがこのピエール・バルーの
声であったこと、当時、無名の映画監督だったクロード・ルルーシュの作品に、無名のアコーディオン奏者だったフランシス・レイがつけたものなど、誰も映画音楽として出版しようとしなかったため、当時歌手として少し売れていたバルー自身がサラヴァレコードを立ち上げてこの映画を最後まで撮り切ったことで、一躍歴史に残る作品となったこと、レーサー役の俳優を探しているルルーシュ監督にバルーがポーカー仲間だったトランティニャンを紹介したことなどなど云々…後に知ることになる。
この映画の仕掛け人はどう考えてもピエール・バルー、彼無くしてはこの映画は成り立たなかったのではないか、とあらためて思うのだった。
そして彼を取り巻く仲間たちのなんと素敵なこと!
2016年末、ピエール・バルーの訃報を耳にした時は、受け入れることができず、結局、53年を経て発表された「男と女~人生最良の日々」を観た後、そこには居ないピエール・バルーのことを強く想い起こした。
そして彼の著書「サ・ヴァ・サ・ヴィアン」を読み返し、彼のデビューアルバム「VIVRE」を聴きかえしながらあらためて彼の人生を偲んだ。
それはさておき、映画「男と女~人生最良の日々」に話を戻そう。
変わり果てたトランティニャン、かと思いきや、こんなに味わい深く(それこそピエール・バルーのように)素敵な詩人のようになっていて、これ、映画館で観たらきっと泣いてしまっていただろう。
観れて良かった。
名声を捨て、自由や冒険を選んだ最後まで真の贅沢な人生を貫いた詩人、散歩人、ピエール・バルーからの贈り物は私の心の中に永遠に残り、これからもずっと私の指針になってくれるだろう。全くなんて贅沢な人生だ。
クロード・ルルーシュ、フランシス・レイ、アヌーク・エーメ、
ジャン=ルイ・トランティニャン、Saravah!
Maurice Bander、Saravah!
Pierre Barouh、Saravah!
